- 投稿: 2011年11月06日 15:15
- 更新: 2011年11月06日 15:15
- 教育
今学期受講している4科目のうち,「かしこくなる患者学(’07)」を聴講し終えたので,簡単なまとめをしておく.この科目はラジオ講義なのだが,仕事・所得と資産選択(’08)と同じくらいに面白かった.主には主任講師のキャラだと思うが.
エンパワーメント
OECDでは各国の医療制度を評価する基準として,「公平性」「効率性」「有効性」「エンパワーメント」の4つをあげている.日本の医療制度は公平性は優れているが,効率性と有効性は十分ではなく,エンパワーメントについては非常に遅れている.エンパワーメントという単語そのものは「能力をつける」「権限を与える」という意味である.1人ひとりの自己肯定感や自尊心を回復し,個人が内側からやる気になるというモチベーショナルな側面と,自分の人生のさまざまな選択において自己決定をし,自分で統御していると感じ,医療者に権限委譲をし,医療に決定参加するという人間関係の側面を持っている.さらには,社会資源を再検討し,条件整備を行っていこうと自分の属する社会の構造に影響を与える過程にもなる.これが「アドボカシー」という言葉になる.(以下私見)UCの主治医と私の関係はまさにこれに該当すると思う.主治医は治療に必要な環境や手段を提示し,私がそれを選択する.だから,薬がペンタサからアサコールに変わったり,ペン注を間欠投薬したりできた.入院していないのも,プレドニンを使っていないのも,同様である.
エンパワーメント患者になるために
- イメージトレーニング
- 生きることを決めること
- 今日は素晴らしいことが始まるぞ,と思うこと
- 元気になった,よかった,ありがとう,と思うこと
- 病状の変化・管理を自分でやる
- 良いこと探し
(以下私見)2番だけやってます.医者に「どうですか?」と聞かれて「いつもと同じです」というのは答えになっていない.「○○は××で変わりないです」などと答えるのが正しい.医者は私のことは知らないのだから,説明しなくてはならない.
セルフマネジメント
セルフマネジメントのスキルは次の5つである.
- 問題解決
- 自己決定
- 諸問題,諸手段の有効活用
- 医療サービス提供者とのパートナーシップを有効なものに発展させる
- 行動を起こす
米国がん協会は「I Can Cope」というプログラムを作った.患者が自分で病気を理解し,治療のために対処方法を学ぶと,患者が自分で自立を促進することができる.I Can Copeプログラムは以下の通りである.
- 診断と治療
- 治療の副作用
- 感情と自尊心
- がんとつきあう
- コミュニケーション技法
- 地域リソース
- 経済的問題
- 疼痛管理
- 栄養管理
- 疲労対処
エンパワーメントの効果
エンパワーメントの効果としては,症状の厳しさが低減し,疼痛緩和がはかられる.また,生活管理ができ,活動性が高まり,生活諸手段や環境が改善することで生活の満足度が高まる.医者と患者のコミュニケーションが改善し,治療のコンプライアンスが高まり,医療効果も高まる.実際「セルフマネジメント」の実施によって,症状が15~30%軽減し,最良の医療サービスによって症状が40~60%軽減する.そして,医療サービスと「セルフマネジメント」を併用することで,症状は55~90%も軽減する.(以下私見)プラセボだと言われようとも,ただ漫然と与えられた薬を飲むのと,自らがこれなら効くだろうと信じて選んだ薬を飲むのでは,わけが違うと思う.
アドボカシー
セルフ・アドボカシーとは,個人が医療提供者に,家族に,友人にどのようにコミュニケーションするかである.病気であることを開示するか,公表するかが問題である.困ったことは主張しないと,変わらない.これからのかしこい患者は,よく勉強し,情報を知るとともに,発信することも重要である.不平不満をいう,我慢とあきらめの時代は終わったのである.(以下私見)このブログがまさにそれである.
細胞の命と人間の仕組み
人間は約60兆個の細胞からできている.細胞病理学の父・ウイルヒョーは「全ての細胞は細胞から生まれる.細胞が死ぬから生命が終わる」と細胞死が個体死の原因と考えた.しかし,脳神経の大部分が変性壊死に陥った脳死患者でも,栄養管理と感染防御を徹底させれば,心,腸,肝,膵,腎,筋肉等の組織細胞はきわめて健康であり,心臓が止らない限りきわめて長期間健康で生きながらえる.最も重要と思われる脳細胞の死といえども,個体の死に直結していない.
もともと細胞は死ぬようにつくられている.「ネクローシス」は細胞の受身の死で他殺という病的な死であるが,「アポトーシス」は遺伝子にプログラムされている細胞消滅の自殺死である.身体は,不要な細胞や損傷した細胞を積極的に排除して,どんどん入れ替えている.したがって,全ての細胞は自然に死ぬべき寿命が決められている.
生命を維持するために,毎日約500リットルの酸素を燃やし,莫大なエネルギーを費やし続けることが必要である.1人の人間の動脈,静脈,毛細血管と合わせて,全長が約10万キロメートルで酸素を全身に運ぶ.水に溶けにくい酸素を体内に溶かすには,約100トンもの体液が必要となる.わずか5リットルの血液しか持たないヒトは,酸素を赤血球のヘモグロビンに濃縮結合し,これを全身に循環させることによりこの難点を解決している.しかし,赤血球だって疲れるので,約120日の寿命で新しいものに変わる.
身体には,傷を受けても病気になっても勝手に治ろうとする力が備わっている.これを「自然治癒力」という.これは以下の3つの力に分けられる.
- 恒常性維持機能(色々な変化に対して身体を正常な状態に保つ力)
- 自己再生機能(傷を負っても,元に戻ろうとする力)
- 自己防衛機能(細菌やウィルスなどの外敵と戦う力)
ストレス
ストレスとは本来,生物が外的あるいは内的な刺激に適応していく反応とプロセスのことをいう.どんな時でも,生物の身体に何らかの反応を起こさせるものが「ストレッサー」であり,刺激の種類に関係なく,それにより生体に生じる反応が「ストレス」である.ストレッサーは大きく5つに分類できる.
- 物理的:温度,騒音,光,部屋の狭さ
- 化学的:排気ガス,酒,たばこ,アルコール
- 生物学的:細菌,カビ,花粉,ウィルス
- 心理学的:怒り,不安,不満,悲しみ
- 社会的:配偶者の死,転勤,失業,借金
普段の生活でストレスを感じている人は,男性で76.9%,女性で84.2%にものぼっている(平成14年国民栄養調査結果による).ストレスに対処することを「コーピング」というが,これには4つの方法がある.
- 直接対処する
- ストレスの状況の解釈を調節する
- ストレスの状態をコントロールする
- ストレスから一時的に逃げる
コーピング方略を実行するかどうかを規定する要因には以下のものがあれば,コーピングしやすい.この要因を高める方策がエンパワーメントである.
- ストレッサーに対する認知的評価
- 自己効力感
- 問題解決スキル
- 社会的スキル
- ソーシャル・サポートなどの役割
スピリチュアル・ケア
患者には病気に対する4つの出会いがある.
- 日常の出会い:軽度の感染症や外傷,保証,検査
- ドラマ的出会い:危機や悪い知らせ
- 変化の儀式的出会い:新たに慢性疾患の診断が下されるというような,突然の難題を抱えること
- 維持期の儀式的出会い:小児や出生前の診察や,慢性疾患の管理のための診察などの出会い
これらを視点を変えて生きる喜びを見出させることがスピリチュアル・ケアである.
笑い
「笑いを取る」というのは,人をどうにかして笑わそうとする行動である.原始的伝染とは相手の表情を知覚して,それを模倣することである.補足運動野として知られている左前頭葉の一部を刺激したら,必ず「笑い」だけを喚起することがあるという.人の脳には,相手の感情を読み取るミラーニューロンがある.これが働くと,つられ笑いが起きる.共感するのがミラーニューロンである.笑いの医学的効果として,以下のものがある.
- 副腎ホルモンが変化
- セロトニン神経の活性化
- 副交感神経優位
- 血糖値が下がる
- 脳内麻薬が出る
- 免疫能が高まる
補完・代替医療
近代西洋医学に対して,東洋の鍼・灸・漢方などの伝統医療,スイスや英国のハーブ医療は,通常の医療に置き換わる代替医療や,通常の医療を補完する医療とし,両者を合わせて補完・代替医療と呼ぶ.WHOの定義によれば,伝統医学は多様な文化的背景に根ざす風土固有の規範,信念や経験に基づく知識,技能,実践法が集約されたものであり,その体系が説明可能であるかどうかによらず,人々の健康維持とともに,身体的,精神的な病を予防,診断,改善あるいは治療する手段として利用されてきたものである.
漢方薬局では,処方箋調剤,メーカーの表示を読んで自己判断で一般の人が服用できるもの,薬局医薬品製造業の許可のある薬局が製造する薬局製剤の漢方薬の3種類を扱う.厚生労働省で,あんまマッサージなどの指圧師,鍼師,灸師と組み合わせて鍼灸マッサージ師は三療師といわれ,国家資格が認められていて無資格施術はできない.
補完・代替医療の種類は,次のように大きく9つに分けられる.
- 古くからある伝統的療法や民間療法
- 用手療法
- 心理療法
- 食事療法
- 健康食品療法
- 薬用・香料植物療法
- 薬理学的療法
- 免疫療法
- その他
富山医科薬科大学では,和漢薬による治療を日本ではじめて行ってきた.対象は以下の通りである.
- 原因の分からない病気や明らかな病態の見いだせないもの
- 病気の原因は分かっていても治療法の確立していないもの
- 副作用などで現代医学の治療法が受けにくいもの
- 心と身体の異常が絡み合っている病気
- 病変があちらこちらにわたり愁訴の多いもの
テキサス大学のMD Anderson Cancer CenterのIntegrative Medicine Programでは以下の7つのカテゴリのComplementary / Integrative Therapyが各臨床部門との連携の元に行われている.
- Alternative Medical System
- Herbal/Plant Biologic Therapies
- (Non-Plant) Biologic Therapies
- Nutrition & Special Diets
- Manipulative & Body-based Methods
- Energy Therapies
- Mind-Body Approaches
安全に高い質の医療を受ける
安全に医療を受けることは患者の権利である.患者の権利は,できてきた段階により4段階に分けられる.第1段階は,患者が最低限の人間扱いされるように求めたものである.第2段階では,かわいそうな患者として意識のない人,意思の表示ができない人にも権利があるというものに発達してきた.第3段階は,患者1人ずつの個人の尊厳を求めたものである.そして,第4段階は患者に対して医療消費者としての義務が加わったものである.
病院の種類
公的病院は,医療制度上の分類として,医療法で特定機能病院と地域医療支援病院の2つに定められている.特定機能病院とは厚生労働大臣の承認を受け高度な医療を提供し,高度な医療技術を開発し,医療研修を行う目的で設立された病院で,全国の79の大学病院および国立循環器病センターと国立がんセンターの計81施設が承認されている(2005年現在).地域医療支援病院とは,厚生労働省が定めた県に数個ずつある,地域密着型で高度な医療を行う病院である.
厚生労働省は,医療サービスを地域密着の一次医療圏,一般的な医療サービスを行う二次医療圏,高度な医療を行う三次医療圏という考え方をしている.三次医療圏とは,ほぼ県1つに該当し,二次医療圏は必要性に応じて各県で数個ある.地域医療支援病院は,二次医療圏に1個あるが強制ではないので,患者移動が首都圏と京阪奈に多い.
救急体制
都道府県ごとに作成される医療計画において,初期,第二次,第三次救急医療の体制も整備されている.初期救急とは入院や手術を伴わない医療であり,休日夜間急患センターや在宅当番医などによって行われる.第二次救急とは,入院や手術を要する症例に対する医療である.第三次救急とは,第二次救急まででは対応できない心筋梗塞や脳卒中,頭部損傷等,重篤な疾患や多発外傷に対する医療であり,救命救急センターや高度救命救急センターがこれにあたる.
外傷では,「ABCルール」を覚えておこう.A(airway)は気道確保と頸椎保護,B(breathing)は酸素投与と換気,C(circulation)は外出血のコントロールと循環の維持である.
セカンドオピニオン
ファーストオピニオンは重要で,主治医に自分の病名,進行度と治療方針の説明をしっかりと聞く.加えて患者本人が,自分で治療法や治療医を選ぶために,主治医とは別の医師の意見を聞くのがセカンドオピニオンである.がんの場合のセカンドオピニオンの医師の選択は,外科医,放射線治療医,化学療法専門の内科医,および大学病院やがんセンターなど専門的に特定の疾患の治療を行っているところであるなど,専門性のある病院や医師が最適である.
医学部の卒前のコア・カリキュラム
医師になるためには,教養教育,臨床前医学教育,臨床実習という6年間の医学教育課程がある.基本事項は,医師としての素養や資質と能力として必要な患者中心の医療の実践,安全への配慮,信頼される人間関係,自ら問題を発見する姿勢や研究への動機づけなどを含む課題探求・問題解決能力の育成などで,単なる知識の獲得よりも,今日の医学・医療の現場と,一般社会から強く求められている教育内容である.
一般的な医学教育
学習者が,学習によって,より望ましい状態に変化するために,一般目標(General Instruction Objective : GIO)と行動目標(Specific Behavioral Objectives : SBOs)を明示する.学習者がすべての行動目標ができることになれば,その総和として一般目標に到達できる.
現在の日本の医学教育で行われていない教育は,専門医師のものでは,家庭医医療,放射線治療,腫瘍内科,チーム医療,補完・代替医療,感染症対策,医療管理などである.
医療コミュニケーション
医師が「どうされました?」といったとき,患者は1番困っている症状を1つだけいう.それについて「もっと詳しく話して下さい」という質問が医師から出る.そうしたら患者としては,次の8つのことを話すようにする.
- 症状のある部位
- 症状の性質
- 症状の持続時間
- 経過
- 症状の起きる状況
- 症状を憎悪,寛解させる因子
- 症状に随伴する他の症状
- 症状に対する自分の対応
良い医師にかかりたい場合には,患者は次のことを注意して伝えるようにすると良い.
- 心理的・社会的情報
- 病気や医療に関する考え
- 検査や治療に関する希望
- とくに心配していること
- 無駄な言葉は使わない
- 大きな声で,明瞭に,ゆっくりと
また,医療面接の場で,患者として特に気をつけなければならないのは次の3つである.
- その病気について1番知りたいことを整理しておき,それを1番先に話す
- 知ったかぶりをしない
- 世間一般の常識を忘れないこと
病院の広告
以前は病院の広告は,医療法によって厳しく内容が規制され,医療機関の名称・所在地・診療科目くらいしか公表できなかった.しかし,2002年からはこれに加えて,医師の略歴,手術件数,分娩件数,平均在院日数,医療機能評価機構の認定結果,専門医資格,セカンドオピニオンの対応なども公表できるようになった.これは患者に医療情報を公開し,患者の選択の幅を広げ,最終的には医療の質が改善されることを目指しているのであろう.
日本の専門医制度の現状
医師は,麻酔科を除く診療科については法令上認められたすべての診療科名を標榜することができる.ある診療科の病気に対して専門的な知識や技能を持っている医師がいるときに,その医師を専門医などと呼んでいる.この専門医は国が認定しているわけではなく,各学会独自に認定の条件を決めている.この専門医が,事実上わが国で唯一の公的な医師の技術や知識レベルの専門性を示すものとなっている.わが国ではこれらの専門医資格を取ったからといって,医師の待遇が変わることは少ない.欧米では報酬増に繋がるのが一般的である.(以下私見)なので,病院の診療科名では最初に書いてあるものが得意な診療分野になっているので,病院を選ぶときに役立つ知識だと思う.
第三者による病院の評価
日本医療機能評価機構は1995年に設立され,医療機関の機能を第三者評価する機関である.病院から提出される書面に基づく審査と,評価調査者が実際に病院に出向いて行う訪問審査からなっている.
医療の質を直接的に評価するための指標を臨床評価指標という.わが国ではまだこの臨床評価指標は公的に確立していない.米国ではJCAHOが行っており,病院の格付けに使われている.
医療の質
もともと医療は患者の物語に基づいた医療(Narrative Based Medicine : NBM)だったが,西洋医療の発達で医師の経験からくる医療になった.それが見直され,証拠に基づいた医療(Evidenced Based Medicine: EBM)で目の前の患者を論理的に治していこうというようになった.医療制度においては証拠に基づいた医療管理(Evidenced Based Healthcare : EBH)が始められ,数字を元に,厚生労働省の政策も変わってきた.
医療の質はストラクチャー,プロセス,アウトカムで表されてきた.ストラクチャーは設備であったり,看護師の数などのシステムである.アウトカムは,生または死,病気,精神的心理的解剖学的構造や機能の喪失,行動や活動を行う能力が制限される障害,能力の欠如からハンディキャップを持った状態などである.しかし,病人にとっては,病気の経過と医療のプロセスがそのまま医療の質である.一般によい医療の質とは,アクセスがよく,利用しやすい,的確で現在の医療水準に照らして正しい,継続性,効果的,潜在的な効能,効率的でコストパフォーマンスが高い,タイミング良く対応が迅速,公平・公正,倫理観・価値観・規範・法制度に則すること,患者の視点・患者の満足,医療環境の安全性などがあげられている.
患者の権利
患者の権利については,世界医師会による患者の権利に関するリスボン宣言(1981年採択,1995年改訂)が有名である.この宣言の中では以下のような権利が挙げられている.
- 良質の医療を受ける権利
- 医療機関を選択できる権利
- 十分な説明を受け,自己決定できる権利
- 患者の意思に反する行為を行わない
- 自己の情報を得る権利
- 尊厳や自己の秘密を尊重される権利
- 保健教育を受ける権利
- 宗教的な援助を受ける権利
対して,患者の責務としては,以下のようなものがある.
- 自分の健康に関する情報を提供する義務
- 治療上のルールを守り,治療に参加する義務
- 医療費を支払う義務
EBMにおける医学的根拠の吟味
EBMにおける医学的根拠として症例対照研究やRCTがある.症例対照研究は,ある時点から遡る方法で研究するものをいい,後ろ向きの研究である.例えば,タバコが肺がんの原因になっているかどうかを調べる場合,ある時点で肺がんになっている人を集め,喫煙の経験を聞く.その他に,肺がんでない人も集めて,喫煙経験を聞き,肺がんの人との比較をする.
RCT(ランダム化比較対象試験)は現在のところ,新しい薬物の治験だけでなく,薬物治療,リハビリテーション,手術法,放射線治療などあらゆる治療法の評価の基準といわれている.ある治療法が科学的に有効であると判定されるには,次の条件が満たされる必要がある.
- 対象を選択する際のランダム化
- 二重盲検法
RCTのデータ解析でも注意すべき点が指摘されている.例えば,臨床試験を最後まで履行した患者だけを解析の対象にすることにすると,偏りは避けられない.副作用があって来院しなくなったかもしれないし,効かなかったので来なくなったのかもしれない.逆に効いたのでもう良いと思ってこなかったのかもしれない.
また,RCTの問題点もある.臨床試験で対象とした患者は,きちんとインフォームドコンセントを得ることができた人たちであり,ある意味で自分の病気に対する意識の高い人たちである.また,難治例は医者があらかじめ選ばないということもあるので,一般に経過が良くなる可能性が高い.大きな問題は,このような臨床試験での対象患者には,高齢者・小児・妊婦・合併症のあるものなどは含まれないことである.しかし,実際にはこのような患者が多いのが現実である.
医療費の現状
高齢者における終末期医療費は平均で総医療費の20%を占めており,85~100歳では約40%にも達している.死亡者の終末期1年間の医療費は,生存者に比べて全年齢平均で27.9倍,70歳以上でも5.3倍かかっている.
国際的に医療費を比較した場合,日本の1人当たりの医療費は世界第7位,国民所得との比率では世界第19位となっている.日本は他の国と比較して,社会保障のレベルは低い.日本の社会保障額は3.4%,公共事業費は6.0%である.しかも,公共事業が社会保障より多いのは日本だけである.イギリスでは8.9倍,ドイツでは3.7倍,フランス2.2倍,アメリカでさえ2.5倍と社会保障が公共事業より優先されている.国民が支払った税金と社会保険料が社会保障給付費としてどれだけ国民に還元されているだろうか.日本は41.6%で,スウェーデン75.6%,アメリカでさえ56.2%であり,他の国に比べ,以下に低い還元率であるかが分かる.
社会保障費の割合は医療・年金・福祉が1965年は,6:3:1であったものが,次第に福祉の割合が増えていった.高齢化社会を前に2000年からは介護保険を導入し,3:3:4に分配し直して,福祉に金を掛けようとしている.
ヘルスリテラシー
ヘルスリテラシーとはWHOによれば,「認識面でのスキルや,社会生活上のスキルを意味し,これにより健康増進や維持に必要な情報にアクセスし,理解し,利用していくための,個人的な意欲や能力を表すものである」.
死に方
社会学的死には,時代によって7つの死があり得る.
- 定年になり社会的な死を迎えると粗大ごみと揶揄され,
- 寝たきりは身体的不自由死
- 認知症は精神的不自由死と考えられるが,
- 最後の息が止ったとき,
- 聴診器で心臓の音が聞こえなくなったとき,
- 心電図で最後の心筋細胞の動きがなくなったとき,
- さらに,冷たくなってしまったとき,
と考えることができる.歴史的には,縄文時代は冷たくなってしまった時を死亡したとしたのであろう.
医学的死の定義
医学的死には,1つの臓器死,心臓死,全臓器死,細胞死,骨・歯死などの種類がある.人工透析をすれば腎臓は10数年生き残るので,全臓器死になるまでに時間がかかる.心臓死を持って法律的死亡というが,葬式中の爪と髭が伸びることをみれば,全細胞の死までは24~48時間かかる.一方で,がん細胞は宿主が死んでも生き残ることができ,ヘラという女性の子宮がんの細胞は研究のために増殖を繰返し,本人はなくなっても死なないで100年以上生き残っている.
死亡の認定が定義により幅があると法律上困るので,日本では呼吸の停止,心臓の停止,瞳孔散大の3つがある心臓死を持って死亡と決めている.脳死には大脳・小脳・脳幹・脊髄まであらゆる中枢神経系の不可逆的な機能停止をした全中枢神経死と,大脳・小脳・脳幹を含む全脳髄の不可逆的な機能停止の全脳死,および脳幹だけの不可逆的な機能停止の脳幹死がある.
死なせ方
死なせ方には,延命治療を手控えるWithholdと,始めた延命治療を途中でやめるWithdrawがある.しかしながら,治療の決定には医学的無利益という考え方を持っておくべきである.患者の病状が末期や重篤で,どの治療目標の達成も困難,または治療の結果が患者の苦痛を増すだけと判断される状況をいう.これには,心臓破裂に心臓マッサージするような質的無益と,高い確率(95.5%以上)で死亡するときに積極的治療をするような量的無利益の2種類があり,これには南カリフォルニアではガイドラインがある.
自分で決める死に方
安楽死とは,死期の近い患者を身体的・精神的苦痛から救うために死に至らしめることをいう.積極的安楽死には,法律上問題があり,1995年の東海大病院の事例で,以下の4つの条件が明らかになった.
- 耐え難い肉体的苦痛がある.
- 死が避けられず,その死期が迫っている.
- 肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし,他に代替手段がない.
- 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示がある.
尊厳死とは,回復の見込みのない不治の病気で死期が迫ったとき,患者本人が人間的な尊厳を保つため自活的に選ぶ死である.蘇生処置を施さないことが尊厳死ではないかと,間違って受け取られている場合が多いが,尊厳死にとは,人間としての尊厳を保って死に至ることである.人間としてケアされて死ねないなら,尊厳死ではない.
ホスピス,緩和ケア
ホスピス(hospice)とは,Hospiyiumが語源で元々中世ヨーロッパで巡礼や旅行者,病人を休ませる宿泊施設を指す.一般にホスピスでは,患者を中心に医療提供者,家族,友人,介護者などがドーナツ状にケアを行う学際的なチームアプローチの形を取り,患者の4つのニーズ(身体的,社会的,情緒的,精神的)を満たすことを目的としている.
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