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私大にとっての顧客とは誰か

  • 投稿: 2012年08月14日 14:57
  • 更新: 2012年08月14日 14:57
  • 教育

私大は企業と同じで経営が必要である.ちゃんと経営して利益を上げないと,建学の精神を全うすることすらままならなくなる.そのため,私大においては経営も重要なファクターとなり得る.多くの私大教員は経営に参画している意識はない(実際に経営は理事会等が行っている)と思われるが,一般企業に置き換えれば教員は社員と同じなので,経営に無関心では立ち回らない.そういうわけで,今日は私大における経営健全化を模索する上で避けては通れない,顧客の意識に注目してみたいと思う.

顧客が誰であるかを意識することはドラッカーが指摘するように重要なことである.

われわれの事業は何かを知るための第一歩は,顧客は誰かという問いを発することである.現実の顧客,潜在的な顧客は誰か,顧客はどこにいるか,顧客はいかに買うか,顧客にいかに到達するかを問うことである.

現代の経営

顧客とは利益を継続的に与えてくれる存在であろう.私大におけるそんな顧客は一体誰であろうか.

まず,私大の売り物(商品)はなんであろうか.これは大学の社会に対する役目と同じであると考えられ,教育,研究,社会奉仕であろう.これらの売り物を買う買い手,つまり顧客は一体誰だろうか.研究成果の買い手は企業であることが多いと思う.これは特に問題はない.社会奉仕の買い手は想定されないだろう.ここでの社会奉仕は大学の役割としての社会還元なので,顧客といえる存在は想定されないと思う.残ったのは教育であるが,この買い手は一体誰だろうか.直接的に商品(教育)を得ているのは,学生である.しかし,その学生の学費を支払っている(スポンサー)は保護者であることが多い.

では,私大の顧客は学生か?保護者か?私の答えとしては,いずれも顧客ではない.では,大学進学で進路を選ぶ高校生だろうか?これも顧客ではないと思う.何故なら,これらは先に示した「利益を継続的に与えてくれる」という定義に符号しないからだ.

私大に対して,利益を継続的に与えてくれる存在は誰か?それは,学生でも,保護者でも,ましてや高校生でもない.

私は現時点におけるこの答えを明確に持っている.私大にとっての本当の顧客は卒業生・同窓生である.これ以外には考えられない.

私大の主な収入源は授業料である.授業料収入がなければ,根本的な経営が成り立たない.しかし,授業料収入があれば経営は上手くいくわけではない.実際には,寄付金が非常に重要な役割を占めてくる.寄付金によって設備の増強や奨学金の整備などが行われ,ひいては教育の改善に結びついていく.そんな寄付金は,一体どこから来るのであろうか.縁も所縁もない人が寄付をしてくれるだろうか.寄付をしてくれるのは精々関係者である.学生の保護者も考えられるが,多くは卒業生・同窓生であろう.もし,卒業生が毎年1000円ずつでも寄付をしてくれたとしたら,どうだろうか.毎年1000名の卒業生を輩出していたとすれば,毎年100万円ずつ寄付金が増えていくことになる.これは心強い後支えになるだろう.

もちろんそれだけではない.卒業生・同窓生は大学の評判をも決定づける.こんな会話を想像して欲しい.何も珍しいことではない.

A「ねぇ.Bちゃんって○○大卒だよね?どんな学校だった?」

B「」

この問いにBがどう答えるかで,Aの○○大学に対する印象は決まるといっても過言ではない.そして,愛校心に満ちあふれている卒業生・同窓生なら,良い評判を流してくれるに違いない.さらに,卒業生・同窓生の子どもが大学受験をするときに,「出身大学に入学させたい」と考えたのなら,大学の経営は安定的であろう.さらにさらに,「○○さんちはお子さんを出身大学の○○大学に入学させるんですってー.そんなに良い大学なのかしら?じゃぁうちの子も・・・」なんていうママ友トークが繰り広げられる展開はアツイ!

何もこれは子どもに限った話ではない.学部卒業後就職したが,また学びを継続したいと思ったとき,母校に戻ってくる卒業生を育てているだろうか.どうも私の周りを見ていると,社会人博士は母校ではない大学,しかも国立大学に通っていることが多い.これは出身大学にとって大きな機会損失であるといえよう.ましてや,学生獲得の競争が激化するこのような時代において,卒業生・同窓生を生涯学習の場として出身大学に留まらせる努力は,非常に重要といえよう.それは放送大学の成功を見れば明らかである.

このように愛校心というのは非常に重要であり,卒業生・同窓生の心を1つにすると共に,大学への好循環を絶え間なく実現してくれる.企業内においても同窓が派閥を組んでいたりするのは,元を正せば愛校心の表れであるといえよう.

大学全入時代,大学倒産時代において,最も重要なものが見えてきたと思う.誰でも,自分の出身校,母校がなくなることは嫌である.大学が経営難に陥った時,泣きつくべきは誰であるか.それは,見紛う事なき,卒業生・同窓生であろう.その時,彼らが助けてくれるだけの愛校心を育てることができていただろうか.私大は顧客を大事にしてきただろうか.

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