Home > 教育 > 全入時代に大学は何を目指すべきか

全入時代に大学は何を目指すべきか

  • 投稿: 2012年08月14日 17:52
  • 更新: 2012年08月14日 17:54
  • 教育

少子化の影響で,大学全入時代に突入し,大学がヤバイなどと言われるようになって久しい.そんな大学全入時代において,大学はどうすればいいのだろうか.今日は,それについて私見を述べたいと思う.基本的に,好き勝手をいっているだけなので,信じられないのであれば,その根拠を探したら良いと思うし,そうでないと思うのならば,自らが信じることを信じ抜けば良いと思う.ただ,危ないのは「誰々が言っていたから,それは正しい(間違っている)」という盲信である.あっという間に,足を掬われてしまう.

大学全入時代で入学者数が減っているという嘘

まず,そもそも論から入ろうと思います.「少子化で入学者数が減っているから,大学全入時代になったんだ」を客観的なデータから嘘であると証明します.論じるまでもなく,瞬殺なんですが,文科省の平成23年度学校基本調査を示します.以下,引用します.

大学 2,893,489人(前年度より6,075人増加)過去最大値

うち学部 2,569,349人(前年度より10,158人増加)過去最大値

うち大学院 272,566人(前年度より1,112人増加)過去最大値

平成23年度学校基本調査(確定値)について(報道発表資料) P.1より

平成23年度学校基本調査(確定値)について(報道発表資料) P.7より

はい論破.少子化の影響で子どもが減っているのは事実ですが,大学進学率も上がっているので,全体として入学者数は減っていません.それどころか,過去最大値となっています.つまり,「少子化で入学者数が減っているから入学定員を埋めるために全入時代になっている」というのは,嘘です.

では大学全入時代とは一体何か?

そうなってくると,世間で騒がれている大学全入時代という騒動自体が作り話のように思われるかもしれませんが,根拠が嘘なだけで,大学全入時代の問題自体はあります.これは,偏りが生じてきているためです.

事実,少子化の影響で大学に進学するような年代の人口は減少しています.しかし,進学率が上がってきているので,入学者数が見かけの上で増えているだけです.標準偏差の分布をイメージして下さい.今までこの山の中央から右だけが進学していたという極論を考えて下さい.少子化によってこの面積自体が縮小しています.しかし,入学者数が減っていないことを考えると,山の左側からも進学するようになったというイメージです.しかも,面積自体は減っているので,頭のいい人も普通な人も良くない人も,それぞれ(きっと)均等に減っています.ということは,上位校(例えば東大京大早慶)などに以前は入れなかったような人でも,入れるようになっています.これが偏差値のマジックで,偏差値はあくまで偏りを表しているに過ぎず,絶対的な能力値を示していません.そのため,10年前の偏差値60と今の偏差値60が同じ能力ではありません.と,この話題は今回のテーマの本質ではないので,止めます.

閑話休題.そうすると,当然ながら,みんな良い大学に入りたいのですから,上位校に人気が集中し,今まで中堅に入るような層も,上位校に入れるようになってしまいます.そうすると中堅の入学者が減ってしまう・・・もっと下層の人が中堅を狙ってくる・・・下層の入学者が減ってしまう・・・今まで進学できなかったような人が進学できる・・・.というような仕組みになっています.こうなってくると,特に,下位の大学では,入学者が上の層に逃げてしまうので,実質的に,試験をやるものの入学定員を埋めるために,ほぼ全入という状態にならざるを得ないのは,想像に難くないでしょう.

これが大学全入時代と呼ばれる問題の1つの側面です.本当は他にも色々な問題を内包しているのですが,今回のエントリで取り上げたいのはこの部分なので,ここだけにフォーカスして述べます.しかし,大学全入時代の問題は非常に根深く,こんな表層的な問題だとは思わないで下さい.

全入時代に大学は何をすべきか

ここら辺から,本題に入っていきます.では,そのような時代において,大学は一体どうすればいいのでしょうか?

1つの考え方としては,大学の特色を前面に押し出し,他大学との差別化を徹底的に行う方法があります.

これは理解できる戦略です.難しいのは,その特色をどのように出すのか,そしてどうやって入学希望者に伝えるのかというところでしょうか.その成功例の1つとして,秋田の国際教養大学をあげることができるでしょう.

他にも特色を打ち出して成功している大学はいくつもあります.地方に多いような傾向を感じますが,これは大学全入時代より前から,地方は入学者確保に苦労しており,その成果が実を結んでいると考えるのが妥当ではないかと思います.

もう1つの考え方としては,複数の大学が統合して総合大学化(いわゆるマンモス化)して,基本的な体力を増強し,生き残ろうとする戦略です.

これも理解できる戦略ですが,実際には統合に漕ぎ着けることができず,閉校になるケースもままあります.ところで,実はこの大学統合について,私は非常に過激な考えを持っていて,国立大学はいわゆる旧帝のみを研究大学として残し,残りの国立大学を放送大学に併合すればいいのではないかと思っています.どこからどう考えても実現可能性は低いですが,私立と違って,国公立の生き残りはより難しくなるでしょうから,何らかの手を打たなくてはならないと思います.

そもそも論として,大学はリカレント教育を行う場であるので,高校卒業生(同等程度を含む)だけが入学対象者ではない.いったん大学を出た人だって,大学生になってもいいわけだし,社会人になってから大学に学びに来ても良いはずである.実際,海外では働きながら学ぶことも珍しくない.

だから,大卒以上も大学生になり得るポテンシャルを持っているのに,多くの大学は無視し続けている.素晴らしい市場があるのに,無視し続けている.唯一,そこをターゲットにしている大学がある.放送大学だ.放送大学はリカレント教育を前面に打ち出し,日本で最大の学生数を抱えるマンモス大学となっている.なぜ,大学はそのような巨大市場から目を背けるのか.なぜ,狭い市場で食い合って勝手に同士討ちを繰り広げているのか.

卒業生が再び大学に戻ってくるという身近な例が,博士課程だろうか.これを修士や学部にまで拡大させるとき,一体何が必要だろうか.リカレント教育向きのカリキュラムを準備するのは当然のこととして,「また大学で学びたい」という気にさせなくてはならない.つまり,それは愛校心でもあるし,卒業生・同窓生を大事にするということでもある.

今の大学はそれをしているだろうか?卒業生・同窓生を大事にしているだろうか?愛校心を育てているだろうか?

これができていない大学は,この大学全入時代において,一部を除いて,消滅するだろう.これをなさずに,生き残れる理由を見出すことはできるだろうか.

Home > 教育 > 全入時代に大学は何を目指すべきか

Return to page top