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こころとからだ(’07)

  • 投稿: 2011年12月05日 00:04
  • 更新: 2011年12月05日 00:04
  • 教育

今学期受講している4科目のうち,「こころとからだ(’07)」を聴講し終えたので,簡単なまとめをしておく.

実体二元論

デカルトは,すべての事物とその存在をひとまず疑ってみるというところから思考をはじめ,あらゆるものは疑い得るが,その疑っている自分自身の思惟そのものはどうしても疑えない,つまり「我思う,故に我あり(ego cogito, ergo sum)」という結論を導き出す.

生物としてのヒト

生物の分類学ではヒトの学名は,Homo sapiensといい,哺乳網の霊長目に入っていて,この霊長目には190種ほどが知られている.ヒトという種は,分類学的にいうと「哺乳網・霊長目・ヒト上科,ヒト科・ヒト属,ヒト」となる.ヒトは霊長類の中に位置づけられるが身体にさまざまな特性を有していて,それらの中で以下に挙げる4点が目立った特性である.

  1. 直立二足歩行ができる体型
  2. 大きな脳
  3. 少ない体毛
  4. 小さな犬歯

ヒトの成長パターンには,いくつかの特徴がある.寿命が長いことが,個体発生の多くの局面に影響しているのである.

  1. 胎児期が平均266日と最も長い割には,他の霊長類よりもずっと未熟で生まれ,新生児は並外れて無力でその期間が長い.
  2. 離乳した後の幼児/小児期間もかなり長い.
  3. 性的な成熟を迎えるまでに10数年を必要としている.
  4. 寿命が長く,生殖能力が停止する年齢を過ぎた後もヒトの社会には老年個体が残っていて,子育ての役割を果たしている.

生体の防御機構としての免疫

動物の基本的な免疫機能は,外界から侵入した非自己を,白血球の一種であるマクロファージ(大食細胞)が食べてしまうことである.高等な動物になるほど,リンパ球を中心とした高度な免疫系が発達してくる.ここでは外来異物を免疫系が非自己として認識する.その仕組みは次のようである.まず体内に侵入してきた物質(抗原)に対して,生体内にすでに準備されている抗体が反応し,抗原抗体反応が生じる.抗体は免疫グロブリンとよばれるタンパク質で,抗原分子に対応した抗体がそれぞれ多数用意されている.抗原と結合した抗体はさらに結合して大きな分子となって無害化され,最終的にマクロファージなどに食べられてしまう.ある抗原が体内に侵入すると,これに対応する抗体が大量に作成される仕組みがある.これを担うのがリンパ球の中のB細胞と呼ばれるものである.一部のB細胞は抗原を記憶しておき,ふたたび同種の抗原に出会ったときには,素早く反応できるようになっている.これが予防接種の原理である.

社会の中の人間

我々は,生物学的なヒトとしての肉体をもち,他の脊椎動物より遙かに大きな容積の脳を持っているが,それだけで誰もが自動的に「人間」になるわけではない.生まれたばかりの人間の脳は,他の脊椎動物と比べても著しく「未完成」なのである.

ロックやコンディヤックの認知論の影響を受けたイタールは,人間には他の生物にはない優れた能力として「感受性」があって,それが模倣能力を生じていると考えていたが,その模倣能力は,幼児期を過ぎると急速に弱まってしまうとも考えていたからである.幼児期に模倣すべき言語的環境を与えられなかった場合,生物としての「ヒト」であっても他者とのコミュニケーションが可能な社会的存在としての「人間」にはなれないことを示唆しているといってよいだろう.

社会化

社会化を社会の側から見れば,人々をその社会の文化にとって適合的な行動様式や資質をもった構成員に作り上げる過程ということになるし,逆に個人の側から見れば,人がその社会の行動様式に適した資質や能力,その社会の構成員としての自意識,その社会の中での役割といったものを自分の内部に作りながら発達する過程ということになる.同一化の欲求によってその他者のもつ文化の内容を取り込んで内面化することで発達していく過程が社会化だと考えるのである.

こころの二面性

超自我は,周りの人たちによってただ一方的にすり込まれるのではなく,2つの自我の間のコミュニケーションを通して,子どもたちが自ら身につけていくのだという考え方もある.これはミードの考え方である.その場合の2つの自我とは,「~したい自分(I)」と「周囲や社会の求める自分(me)」である.

内的コミュニケーションは,一般の会話同様,二人の話者の間のメッセージのやり取りという一定のパターンをもっている.そしてそれは,ほぼ白紙の状態で生まれる人間の子どもが生まれつき身につけているものでは決してない.そうであれば,その技法を獲得するために何らかのモデルが必要であることは言うまでもない.内的コミュニケーションの最も普遍的なモデルは,自分と母親の会話である.

エリクソンの発達の考え方

エリック・エリクソンが注目した発達の側面は人格であった.人は生涯にわたってその人格を形成していくのだと彼は考え,青年期が発達の最終到達点とは考えなかった.彼は,人間が8つの人格要素を発達させられる可能性を生まれながらに持っているのだという.8つの要素と内容は以下の通りである.

  1. 乳児期 基本的信頼 vs 基本的不信(希望)
  2. 幼児期 自立 vs 恥,疑い(意志)
  3. 遊び期 自発性 vs 罪悪感(目的)
  4. 学童期 勤勉性 vs 劣等感(有能さ)
  5. 青年期 自我同一性獲得 vs 自我拡散(忠誠)
  6. 若い成人期 親密性 vs 孤独(愛)
  7. 中年期 生殖性 vs 停滞(世話)
  8. 老年期 統合 vs 絶望,嫌悪(知恵)

人の一生

孔子が自分の生涯を振り返る形でライフサイクルの1つの理念型を「われ十有五にして学に志す,三十にして立つ,四十にして惑わず,五十にして天命を知る,六十にして耳順う,七十にして心の欲するところに従いてのりをこえず」と簡潔に示したことはよく知られているし,シェークスピアも人生を7つの年代に分けて示している.

発達段階と発達課題

エリクソンは,人間が自立と社会適応を高める正の要素により獲得される社会的基盤とそれを否定する要素による葛藤の危機を解決していくことで発達を遂げると考え,その葛藤の内容によって,誕生から死までの期間を8段階に区分した.エリクソンによる発達とは,人生においてその成長の度合いに応じたレベルの異なる心理的社会的葛藤を体験し,それによる危機を乗り越えることでそれぞれのレベルの発達課題を達成していくことである.

アメリカの教育学者であったハヴィガーストは人生を以下の6つの段階に区分し,そのそれぞれに社会や文化から要請される達成すべき課題があることを示した.

  1. 乳幼児期
  2. 児童期
  3. 青年期
  4. 壮年初期
  5. 中年期
  6. 老年期

発達課題には,いくつかの意義と概念としての性格がある.それは次のようなものである.

  1. 健全な社会適応にとって必須の学習内容であること.
  2. 基本的に適切な時期に一定の期間内で学習されなくてはならないこと.適切な時期を越えた課題は達成が困難となり,その意義も弱まる.
  3. 子どもから高齢者に至るまでの各年齢段階のすべてに存在すること.

達成目標の成就と自己実現

マズローによれば,自分自身についてよく理解し,自らの可能性を最大限に実現しようと試みるところにこそ「人間の本質」がある.自分の達成目標を積極的に成就しようという欲求をもち,それを満たすための努力の連続が人生だということになる.下位の欲求が満たされることで,より上位の欲求の充足を目指すとマズローは考えた.いわゆる「欲求段階説」である.

  1. 生理的(身体的)欲求
  2. 安全・安心の欲求
  3. 所属・愛情の欲求
  4. 承認・自尊の欲求
  5. 自己実現の欲求

成人学習者の場合,周囲にいわれて,とか,資格が欲しくて,とかいった直接的な原因はあったとしても,基本的には,周囲に「認められたい」という承認・自尊の欲求や,さらに高次の自分の人生を「充実させたい」という自己実現の欲求で努力していると考えられるからである.

教育のさまざまな位相

家庭での教育においては,人間への基本的信頼(端的に言えば「一人よりも家族といる方が心地よい」という心理)を醸成することが最も重要な発達課題となる.

就学前教育においては,子どもたちは,家族以外の他者と情緒的に結びつき協調することの心地よさ,簡単なゲームのルールの習得,走る・投げる・跳ぶ等々の身体運動技能の獲得,集団そのものへの理解等々,ピアの中で実に多くのことを学び,発達する.しかし,いかに技術が進み,情報化が進展したとしても,社会の仕組みと文化に変化がない限り,子どもの発達課題が大変動するとは考えにくい.組織的な就学前教育であっても,その基本は,先に述べたような他者との協調やルールの取得等,ピアの中で獲得すべき内容と同一であって,「ピアの代替」という幼稚園,保育所の最大の使命に大きな変化はないと考えるべきであろう.

エリクソンは中等教育の時期に,自分の主体性,自分らしさ,独自性といったものに関わる自我同一性の危機を迎えると指摘する.

自殺と動機

哲学者の天野貞祐が,人はたった1つの理由で自分を殺したりはしない,複数の理由が重なって自殺に至ると語った.旧制一高生であった藤村操が,人生不可解なりという言葉を残して華厳の滝に投身自殺した話題にふれて,自殺を決意させる原因は,単一ではなく複数あり,重なり合うということである.「国民衛生の動向」によれば,遺書に残された自殺動機の分類では,健康問題が第1位となっている.

地域保健

昭和57年に制定された老人保健法の中で,市町村による保健事業として,健康手帳の交付,健康教育,健康相談,健康診断,機能訓練,訪問指導,そして医療という7つの事業の実施が定められた.基本健康検査は,対象者は職域などで健康受診の機会のない40歳以上の住民で,診査内容として,必須項目は問診,身体計測,理学的検査,血圧測定,検尿,循環器検査,肝機能検査,血糖検査であり,選択項目は心電図検査,眼底検査,貧血検査,ヘモグロビンA1c検査からなっている.がん検診については,胃がん,子宮がん,肺がん,乳がん,大腸がんの検診が行われており,受診率は平成15年度において,それぞれ13.3%,15.4%,23.7%,12.9%,18.1%で,低迷している.

職場のメンタルヘルス

1999年,当時の労働省は「心理的負荷による精神障害等に関わる業務場外の判断基準」を示し,自殺を含む精神障害の労災認定基準を明確にした.職場のメンタルヘルスについては,厚生労働省が2006年に公表した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に従って各企業がメンタルヘルス対策に努力することとなっている.

こころの健康づくり対策

現在のわが国の精神保健は,大別して2つの柱がある.慢性の精神障害を持つ人々の地域での生活を支援するという取り組みと,うつ病や自殺,ストレスなどに対する対策であるこころの健康作りである.2003年,厚生労働省から公表された「こころのバリアフリー宣言」では,次の2つのテーマが盛り込まれている.1つは「あなたは絶対に自信がありますか,こころの健康に?」という見出しで,精神疾患を自分もかかる可能性のある問題として関心を持つこと,こころも体も無理しないでこころの健康問題を予防すること,自分のこころの不調に気づくこと,精神疾患への正しい対応を知っておくことが大事とされている.もう1つは,「社会の支援が大事,共生の社会を目指して」という見出しで,慢性の精神障害をもつ者に対するこころのバリアを作らない,障害者が自分らしく生きている姿を認めること,障害者と出会い理解すること,障害者と互いに支えあう社会づくりを掲げている.

集団の類型

これまでに,集団の類型としてはさまざまな概念が提示されている.1つは「第一次集団」と「第二次集団」であり,アメリカ,ミシガン大学のクーリーらが構成員相互の関係のあり方に注目して分けた類型である.クーリーらは,さまざまな集団の内,構成員相互の全人的で直接接触し合う親密な結合,共同,共生といった人間関係を中心とする集団を抽出し,それらを第一次集団と名付けた.それに対して,一面的で他者への転移が容易なメンバーシップや対面性のない間接的な相互関係に基づく集団は,第二次集団と名付けられた.

もう1つは「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」である.独の社会学者テンニエスが示した,集団の起源や成立の根拠を基準とする概念である.ゲマインシャフトは,同一の祖先,道徳的一体性,親密性などを伴う地縁・血縁集団で,人々がそこに属することを自分が希望したのではなく,そこに生まれることによって構成員となるような集団である.もう一方のゲゼルシャフトは,ある特定の目的達成のために形成された実践的手段としての集団で,人々が契約によってそれに参入してくるような集団である.

サンクションと信念

規範が遵守されるためには,サンクション(賞罰)による強制,もしくは規範を遵守することを正しいとする信念(内発的動機づけ)のいずれか一方または両方が必須である.

「自立」の意味するもの

自立という概念は,複数の要素で構成されているが,成熟という概念を用いて表すと,次のような3つの内容にまとめられる.1つ目は「肉体的成熟」である.身体の各器官が労働や婚姻に十分なだけ成熟していることがその内容である.2つ目は「社会的成熟」である.周囲の人々と問題なく付き合っていけるだけの十分な協調性や,社会的な役割を遂行する能力,あるいは挨拶や礼儀など他者と関わる上での技能を身につけることがその内容である.3つ目は「精神的成熟」で,安定した精神状態,忍耐力,問題解決にあたっての判断や決断力,自尊心,向上心,ある程度の孤独に耐えられる独立心などがある.

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