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仕事・所得と資産選択(’08) 第13回

  • 投稿: 2010年12月28日 23:33
  • 更新: 2010年12月28日 23:33
  • 教育

第13回は「生活者を取り巻く新たな経済・社会情勢」です.

内閣府「国民生活に関する世論調査」において「お宅の生活の程度は,世間一般からみてどの程度と思うか」との問いに中流と答える人が1967年に89.2%,その後ほぼ90%と,いわゆる「一億総中流社会」が日本には存在していた.しかし,21世紀に入り,景気が上昇傾向になってから,徐々に貧富の差が現れてきた.所得の再分配が平等かどうかを示す所得再分配調査のジニ係数をみると,1981年の0.314から年々上昇し,2005年には0.387と,不平等化が進行している.

2006年のOECDの対日経済審査報告書の中で,日本の勤労世帯(18~65歳)の貧困率がアメリカに次いで2位となった.また,勤労世代に限らず全国民で見ると,日本の貧困率は15.3%で5位,先進国だけで見ると,アメリカ,アイルランドに次いで3位である.日本の貧困層は高齢者と若者であり,66~75歳の貧困率は19.5%,76歳以上は23.8%に達している.一方,若者(18~25歳)の貧困率は16.6%と高くなっている.ここで,貧困率の定義がテキストにはなかったので,wikipediaで調べた.ここでは相対的貧困率を指していると思われる.

OECDによる定義は等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った値)が、全国民の等価可処分所得の中央値の半分に満たない国民の割合の事。

貧困率 – Wikipedia

消費者金融の利用者は約1400万人,借入件数が5件以上ある多重債務者は約230万人といわれている.サラ金問題などが深刻化したことによって,1983年には貸金業規制法が成立し,出資法の改正,1999年には利息制限法の一部が改正された.出資法での利息制限は1991年には40.004%,利息制限法で15~20%でった.このため,サラ金業者は20~40%未満のグレーゾーンで金利を決めているのがほとんどであった.しかし,商工ローン問題によって,2000年には出資法の上限が29.2%に改正された.ヤミ金融ではトイチ(10日で1割),トヨン(10日で4割),トゴ(10日で5割=1825%)などの高金利で安易に貸し付ける.多重債務に陥った場合,解決方法としては,

  1. 任意整理
  2. 調停による整理
  3. 自己破産
  4. 個人再生手続き

がある.任意整理は,裁判所などの公的機関を利用せずに,私的に債権者と話し合い,債務整理をする方法である.調停による整理は,簡易裁判所の調停委員が債務者と債権者の間を斡旋して,利息制限法等に基づいて合意を成立させる方法である.これは,毎月一定額を返済できても,支払い不能に陥る可能性がある場合に利用する.個人再生手続きは,個人版民事再生手続きである.自己破産は,債権者に生活再建と再出発を与える最終手段である.自己破産件数は2005年で約18.4%である.自己破産した人の割合は,30歳代が24.6%と最も多く,50歳代の23.0%,40歳代の21.8%,20歳代の13.7%と続く.破産理由は生活苦・低所得が25.9%と最も多く,負債の返済が12.49%と続く.負債額は200~400万円が29.1%と最も多いが,次に1000~5000万円が20.0%と続く.

戦後の混乱から抜け出し,日本特有の総中流平等意識から,急速にアメリカ的競争社会へと向かっているが,「富む者はますます富み,貧しい者はますます貧しく」なる社会になってきている.「努力する者が報われる」社会は競争意識を高め,生産性が上昇するため好ましいが,近年は「努力しても報われない」社会になりつつある.また,病気や事故などの場合でも,社会保障に頼れない傾向を生み出している.弱者切捨ての格差社会は,富裕層にとっても幸せな社会とは決していえないはずである.

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