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大学と社会(’08) 第12回

  • 投稿: 2010年12月19日 01:29
  • 更新: 2010年12月19日 01:29
  • 教育

第12回は「変貌する大学教師」です.がおー.

大学の機能には,教育,研究,社会サービスの3つがある.歴史的には,大学は教育の場であり,その後,大学に近代科学が導入された19世紀には大学は研究の場ともなり,20世紀には社会へのサービスが期待されるようになった.大学教員の役割は,それらの機能に対応して,教育者,研究者,社会サービスの遂行者としての3つがあるが,大学の管理運営の役割も持っている.

19世紀ドイツの研究大学のモデルは,アメリカ,日本など世界の高等教育制度に大きな影響を与えた.研究施設で,「研究を通した高度な教育」が行われ,教員と学生が学問共同体の一員としてともに真理の探究を目指した点である.いわゆる「教育と研究の統一」というフンボルトの大学理念である.19世紀後半になると,ウィスコンシン大学が「教育と研究によって州民に貢献すること」を大学の理念とした.こうして,20世紀に入ると,大学教員には,教育と研究に加えて,社会サービスという役割が加わった.

教員の職務は学校教育法第58条によって定められ,旧法では,教授は「学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に従事する」,助教授は「教授の職務を助ける」,助手は「教授及び助教授の職務を助ける」とされ,独立した専門職としての位置づけは弱かった.新法では,助教授が廃止され,新しく准教授が設けられ,助手のうち主として教育研究を行う者のために「助教」の職を設けた.また,教授,准教授,助教の職務は,全く同一になり,その違いは,資格要件だけになった.特に,新法第58条においては,上位の者を「助ける」という規定はなくなった

これまで教授に従属して研究せざるを得なかった若手教員は,自立して教育研究に邁進できるようになった.しかし,若手教員にどの程度責任ある役割を与え,実力を発揮させるかは,各大学・大学院研究家の運営の如何にかかっている

大学教員の国際比較調査(有本・江原編,1996)によれば,「私の仕事は相当な心理的緊張を伴っている」という質問に肯定的に解凍する日本の大学教員は55.9%にのぼった.「教育活動と研究活動のどちらに関心があるか」を尋ねたところ,教育は27.5%,研究は72.5%と,全体平均(教育44.0%,研究56.0%)よりも研究志向が強かった.

最近は,外部の者による第三者評価が行われ,教員個人の教育研究などの業績が人事評価や待遇に反映するよう求める声もある.大学教員は,心理的な圧力をますます強く受けるようになっている.大学教員が力を発揮できるよう意図した制度改革が行われてきたが,それらの改革の結果,我が国の大学教育や研究活動の質が向上するか否かは,今後明らかになっていくであろう.

強調部分はすべて私による強調である.

以下は,私見.若手研究者の補助金などが仕分けられ,ポスドクが甘えだとか,博士進学は無駄だとか論じられる昨今において,研究大学は社会に対して一体どんな貢献をしているのだろうか.社会は研究大学を求めているのだろうか.優れた研究者が在籍する私立大学は,顧客である学生ならびにその保護者に対してメリットであるといえるだろうか.真に社会が求めているのは,教育大学,ひいては所詮,就職予備校なのではないだろうか.このような時代にあって,大学在籍の研究者の価値はどれ程であろうか.

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