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TOKYO IBD第22回医療講演会「炎症性腸疾患の病態と最近の治療の傾向」

  • 投稿: 2012年09月30日 15:42
  • 更新: 2012年09月30日 15:42
  • 参加報告

久しぶりにIBDの勉強会に行ってきました.昨年12月に行われた横浜市立大学市民医療講座以来です.今回はTOKYO IBDの第22回医療講演会を聴講してきました.今回の講師は聖路加国際病院消化器内科の福田勝之先生でした.簡単にレポートしたいと思います.講演内容はIBDだったので,UCもCDも説明されていましたが,UCの話題についてのみ書きます.

全般的な知識

UCの重症度として,びらん型,潰瘍形成型,深掘れ型,広範粘膜脱落型の順でひどくなります.私の場合,初発時のTCFでは潰瘍形成型まで進行していたので,やはり中等症で妥当そうです.2009年度末でCDが32187人,UCが121319人だそうですが,臨床調査個人票を書いても出さない人もいるらしく,患者実数はもっと多いだろうとのことでした.患者の重症度は,軽症が46.4%,中等症が35.5%.臨床経過は,再燃寛解型が71.3%,初回発作型が18.4%,慢性持続型が8.4%であり,高寛解率を示しますが,再燃を繰り返すのが大半であることがわかります.私も再燃寛解型です.ここで注意したいのは,初回発作型です.UCは治療法が未確立なので,初回発作のみに見えても,それが本当に「治った」のか,「落ち着いているだけ」なのかは,「医学的に区別できない」と説明されていました.

治療

治療における基本方針としては,早急に寛解状態に移行させることが大事で,その際には完全に炎症を消すのが大事であると強調していました.医学的エビデンスがあるわけではないようですが,初発時に正しい治療でキッチリと炎症を消し去った方が後々の治療成績が良いようです.長いこと炎症をくすぶらせておくと「記憶してしまう」のような表現で説明していたように思います.UC患者ならわかると思いますが,多少の炎症があっても,便回数が減ってくると血便でも「まいっか」って思うようになります.これが良くないらしく,きっちり消すべきだという考えでした.

基本的に5ASAを使いますが,ペンタサ2gでくすぶらせながら寛解維持するくらいなら,4g全開量で寛解維持させた方がいいとのことでした.寛解維持量は2gにこだわらず,炎症をコントロールできる量を使うべきという考えでした.で,ペンタサ4gでコントロールできない場合に,ステロイドを適切な量を短期に使う方針でした.そもそもステロイドには寛解維持効果はないので,漫然と使ってはならないとのことでした.

5ASAの副作用についても触れていて,ここでは新しい知見を得ました.5ASAの副作用は投薬後の早い段階で出現し,2週間程度で副作用がでなければ,副作用はないと考えてもよいということは知っていたのですが,さらに,「5ASAの副作用は用量依存性がない」とのことでした.つまり,2gで副作用がでなければ,4gでも副作用はでないということらしいです.こういうこともあって,寛解維持期においても全開量を使うようです.妊娠中についても,安全な薬は確実に飲むように指導しているそうで,5ASAは普通に飲んでもらって,ステロイドも20mgくらいまでは使えるとのこと.それからGCAPですが,初発中等症びらん型は効果が期待できるようです.5ASAとステロイドの併用でコントロールできない場合,プログラフを使うかレミケードを使うかという指針については,明確な答えが出ていないそうです.

今回の講演ですごく印象的だったのは,免疫調整剤シクロスポリンを使っているという話があったことです.確かに,重症UCに対してのシクロスポリンは推奨グレードAになっていますが,そもそもシクロスポリンはUCに対して保険適用外なので,驚きました.治験扱いということなのかしら・・・.お金の話はおいておいて,ステロイド依存性やステロイド抵抗性でなかなかコントロールできない重症例に対して,シクロスポリンは「切れ味が鋭い」そうです.この表現はレミケードでも良く耳にする表現です.かなりの速効性が期待できるということでしょう.

UCに対するレミケードの話も少し出ましたが,最重症例には効かない(効果が弱い?)らしく,シクロスポリンやプログラフといった免疫調整剤を使うようです.また,シクロスポリンが期待ほどの効果をあげない場合は,手術を考えるそうです.

UCの食事制限

今話題のUCに食事制限は必要か否か論ですが,患者の実感通りで,UCに対しての食事制限は必要ないとのことです.試してみて,ダメならダメ,平気なら平気と自分で色々試せば良いようです.ただし,CDは確実に食事療法の効果があり,小腸型は特にそうだそうです.一方で,福田先生はかなり患者に近い立場をとられるようで,「好きな物を食べれば良い」と.治療の目的は「通常の生活ができるようにする」ことであり,当然ながら食事も含まれるから,治療の選択肢が増えてきた今なら,多少は・・・との思いがあるようです.「食べ過ぎで再燃したとしても怒りません」とのことでした.いいひとだー.

講演会後の交流会でも同じ話題がでましたが,UCの場合,食事制限はそれほど効果を示さないけど,食事制限によるストレストリガーで再燃するので,やらない方がいいという話も.私の実感とも一致します.ただ,当然のことながら,個人差がありますので,何でも食べて良いというわけではありません.人それぞれです.

まとめ

患者会の講演会にいらっしゃる先生方は,当然ながら,患者に近い立場で良く理解してくれる先生方ばかりです.慢性疾患の場合,患者と医者の距離はすごく重要だと思うので,一緒に病気と闘っているという実感が持てる主治医は素晴らしいと思います.

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