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横浜市立大学市民医療講座「炎症性腸疾患の基本と内科・外科治療」

  • 投稿: 2011年12月11日 22:06
  • 更新: 2011年12月14日 11:48
  • 参加報告

12月11日に横浜情報文化センターで行われた横浜市立大学市民医療講座「炎症性腸疾患の基本と内科・外科治療 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)のここが知りたい! ~基礎知識から最新治療、手術まで~」を聴講してきたので,レポートしたい.市民講座になっているのだが,内容はものすごく専門的で,高度な内容になっており,医療関係者とIBD関係者以外は置いてけぼりにされてしまうくらいの充実した内容でした.製薬メーカと協賛団体の配付資料もご自由にお持ち下さい状態になっていたので,全部もらってきたのだが,実に豊富で,潰瘍性大腸炎とは?のようなものから,LACP/GCAP,レミケード/ヒュミラまで至れり尽くせりの充実具合でした.先日の千葉大IBD教室もすごいと思ったが,今回はさらにすごかった.やはり,専門医療機関主催の勉強会はすごいっす.

以下にレポートしますが,UCを中心に,私が知らなかったことをまとめています.知っている知識でも広く知らしめるべき知見については言及します.正確さには注意を払いますが,誤りが含まれていることもあります.講演中にも講師から言及がありましたが,IBDは原因不明の難病ですので,現在の学説が絶対的に正しいということはなく,現時点における主流だというだけです.

横浜市大病院ってすごいの?

横浜市大病院は日本でも数少ないIBD専門の診療科として,IBDセンターを開設している.IBDセンターでは内科と外科がシームレスに連携し,IBD治療を進めている.つまり,平たくいえば,IBDに関しては最先端の情報を豊富に持っている数少ない医療機関ということである.

IBDとは

IBDはInflammatory Bowel Diseasesの略で,原因不明の慢性・再発性腸炎の総称で,潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)が含まれます.安倍元首相はUCですし,アメリカ大統領にIBDが多い旨の言及がありました.CDは近年猛烈な勢いで患者数が増えており,先10年で5倍になると予測されているそうです.日本の有病率は欧米諸国比でまだまだ低いが,急速に増加している.CDは水洗トイレがあるなどの清潔な環境下で発症率が高いという調査があるらしいのですが,日本でそれは・・・.

日本人に多い消化管疾患としては,胃・十二指腸潰瘍,胃がんなどがあるが,これらはヘリコバクター・ピロリ菌が重要な原因であることが判明しており,今後減少が期待される.対して,食の欧米化に伴い,逆流性食道炎,虚血性腸炎,大腸がん,過敏性腸症候群(IBS),IBDなどが増加している.歴史的にも統計的にも,感染症が減ると,免疫病が増える傾向にあり,衛生状態がよくなるとなりやすい病気らしいです.50年前は難病であった赤痢,結核などは原因菌が特定され,特効薬が開発され,現在では完治できる病気である.IBDに関しても,今後原因が特定されれば,将来的に完治が予想される(今のところ,原因を特定するに至っていない).

典型的な症例であれば,大腸内視鏡の画像を見て,UCとCDは簡単に鑑別できそうです.そのくらいに,UCとCDは違います.毎度毎度思うことですが,CDやべぇ.UCの内視鏡画像で,白くなっている部分が潰瘍なんだそうです.オレの検査結果を見ると,あーあって感じですね.

内科的治療

IBDの内科治療は大きく分けて,以下の4種類になります.

  • 薬物療法
  • 栄養療法
  • 白血球除去療法
  • 内視鏡的治療

薬物療法には,抗炎症治療として5ASA(ペンタサ,サラゾピリン,アサコール),免疫抑制治療としてステロイド,免疫調整剤,生物学的製剤(レミケード,ヒュミラ),などがある.内科治療の選択は目的によって異なり,寛解導入と寛解維持に分けられる.例えば,イムランは再発予防であり,寛解維持には使えるが寛解導入には使えず,ステロイド,LCAP/GCAP,シクロスポリンはその反対である.

基本的に5ASAは主力治療薬で,寛解導入から寛解維持まで適用され,継続が原則である.5ASAの副作用は多くが2週間程度で現われ,遅いものでも数か月で現われるため,一定期間で副作用が出なかった場合,その後に副作用が出ることは稀である.アサコールは凹んでいる箇所に溜りやすく,つまり潰瘍の凸凹に引っかかりやすいため,効果が出やすいとのこと.5ASA製剤はDDSが工夫されており,体内吸収が少ないため,妊娠中でも利用可能であることが調べられている(後述).また,がん抑制効果があり,発症率を半分に下げる効果があるらしい.5ASA製剤については,ペンタサとアサコールがあり,現在国内治験が行われているものとして,1日1回内服のリアルダと1日1回内服で顆粒製剤のサルフォークがあります(私見:所詮は5ASAだと思います).なお,講演ではTCF検査中に発見されたペンタサやアサコールの映像が紹介されたが,実に興味深かった.あいつら効いてんのかなんなのかわからんけど,ああやって映像で見せられると「あーちゃんと仕事してんじゃん」って思えました.

食事療法,栄養療法についてはCDに対して有効ですが,UCには効果は無いようです.特に寛解期においては全くといって良いほどどうでも良いようです.ただし,患者の実感としてはやっぱりあれなので,色々試してみて,大丈夫なものは大丈夫,ダメなものはダメ,と自分で決めるべきだと思います.で.CDに対して栄養療法は有効で,特にエレンタールが良いようです.エレンタールはタンパク質を含まないアミノ酸の栄養剤で,そもそもは宇宙食として開発されたんだそうです.動物実験の結果では,エレンタールはステロイドと同程度に腸炎を抑制するようです.これは,エレンタールに含まれるヒスチジンというアミノ酸が炎症抑制効果を発揮するんだそうです.同じアミノ酸だからって,アミノバイタルを飲んでもダメだそうです.桁が違うのだよ桁が.

ステロイドは適切なタイミングに適切な量を使うならば,ゴールドスタンダードな治療法です.非常に良く効く反面,元々生体内でホルモンとして作用するので,副作用が多いという問題があります.ステロイドの長期投与や抵抗性や依存性などで,ステロイドを中止する工夫として,白血球除去療法,免疫調整剤,レミケードなどがある.

白血球除去療法(LCAP/GCAP)は透析のようなもので,血液を取り出し,活性化白血球のみを除去して,体内に戻す方法で,内科治療で唯一なにかを取り除くというアプローチの治療法である.そのため,副作用はほとんど無い.有効性はUCで60%,CDで50%だそうです.うーん.当たるも八卦当たらぬも八卦.ちなみに,LCAPは13万円/回だそうです.

免疫調整剤としては,イムラン,アザニン,ロイケリンなどの6MPがあり,効果は2ヶ月~1年程度かけてゆっくりと出現し,IBDでは2~5年間服用し,その後に中止を判断する.日本人のIBDでは効果が高いという報告があり,高い寛解維持効果が得られる.タクロリムスも高い寛解導入効果(70%),重症に半数有効,2週間で効果が出現する速効性,とかなり有効なようです.

CD向けの話題ですが,小腸の検査手段として,ダブルバルーン内視鏡カプセル内視鏡があります.狭窄に対しては,バルーン内視鏡で開いたりもできるそうです.

ここまでで印象的だったのは,これら内科的治療は国民皆保険である日本ならではの充実度だそうで,タクロリムス,LCAP,ダブルバルーン内視鏡による治療を受けられるのは日本だけだそうです.TPPでどうなっちゃうんでしょうね.

外科的治療

治療の基本は内科治療であり,外科療法は原則として内科療法で改善しない場合に選択する.UCの手術適応は重症,難治,がんのいずれかに分類され,手術率は5%~25%程度である.よく見かけるUCの癌化率や累積手術率はデータが古く,特にアメリカのものは5ASAが使われる前のものであり,5ASAによるがん抑制効果が期待される現在においては,癌化率や手術率はもっと低くなるのではないかとのこと.

この後の説明には,大腸全摘や人工肛門,CDに対する外科治療がありましたが,ちょっとあれなので,割愛.この先生は完全に外科視点だとわかる話っぷりでした.しかも,鮮明な写真付で,結構あれでした.貴重な資料ではあると思いますが・・・.痔瘻こわい.

Q&A

よくある質問と会場からのQ&Aの一部を紹介します.

Q:どんな仕事を選べばいいか?

A:定期通院ができ,病気に理解がある仕事.夜勤はリスクが高い.ストレスがない仕事はない.就活時に病名を明かすかどうかについては,聞かれたら言えばいいという程度.

Q:妊娠は?

A:2008年のガイドラインで妊娠は問題がないとなっている.横浜市大の2000~2009年に,薬を飲んだまま,妊娠出産したケース(100人以上)を紹介.早産や少し小さく産まれる(SGA)は多少あるが,奇形はない.活動期だとリスクが少しあるが,ほとんど問題ない.

Q:UCは遺伝か?

A:遺伝病ではない.一卵性双生児であっても,必ずなるわけではないので,遺伝だけでは説明できない.家族内遺伝は数%であり,他の遺伝病に比べて低い.他の環境因子があると思われるが,不明.

Q:ストレスは?

A:ストレスについては学説でも両方あり,意見が分かれている.ストレスにより免疫低下することは明らかにされているが,ストレスがUCの直接原因とは考えられない(そうなの!?).ストレスがトリガーにはなり得る(って言ってた気がする).

Q:内視鏡検査を受けていないのだが

A:大腸内視鏡検査は大腸がんのサーベイランスであるので,1年に1回は受けることを薦める.特定疾患の更新時に大腸内視鏡検査があるのは,大腸がんがないことを確認するのが更新条件となっているため(って言ったような気がした).

Q:漢方は効果があるか?

A:柴苓湯は効果があるが,非常に強い漢方であり,副作用に注意が必要.大建中湯は近年注目されており,CDに効果があるらしく,アメリカで大規模スタディが行われている.

Q:エレンタールがまずい

A:栄養療法は効果があるので,飲みやすくなるように企業は頑張るべき(べき!)!エレンタールがまずいのは,アミノ酸が入っているからで,アミノ酸が臭い.

Q:便回数が多いのだが

A:直腸に便が来るとそれに反応して便意を催す.活動期においては,直腸が炎症を起こしていると,それを便と誤判定し,便意を催し,暴発する.

Q:特定疾患の今後は?

A:このままではいかない.特定疾患予算のほとんどはIBDが使っている.軽症ははずされるのではないか?高額な治療(レミケードやLCAPなど)は残るのでは?(これは講演者の私見なので,そうなるとは限りません)

Q:痛み止めは?

A:安全性が確認されているのはカロナールのみ.

Q:薬を飲み忘れたらどうする?

A:ステロイドは飲まないと影響が出るので,きっちり飲む.5ASA,イムランは飲み忘れたら飛ばして,次から飲む.

Q:メモ無し(新しい治療法はないのか?かな?)

A:大腸の細胞を取り出して,正常な細胞を培養し,大腸に戻すと良いという最新の研究がある.医科歯科大のグループがこれから発表する.

まとめ

専門医療機関が主催しているだけあって,市民講座とは思えないハイレベルな内容でした.資料も充実していて,良かったです.特に,国崎玲子先生の話が大変に素晴らしく(内科の先生だから?),最後の小話は涙無しでは聞き遂げられないものでした.

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