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大学と社会(’08) 第9回

  • 投稿: 2010年12月08日 00:41
  • 更新: 2010年12月19日 01:34
  • 教育

第9回は「高度情報化社会と大学」です.

コンピュータの発達とネットワーク社会の出現により,大学にも大きな改革が起こった.15世紀の印刷革命は,知的・学問的営みのあり方を根本的に変革した.それまでの写本では不可能であった大量で安価なテキストの生産と流通は,面倒な書写や暗記から学者達を解放した.印刷メディアの登場は,学者達の間での活発な議論・論争を促した.同時に,選手権という概念も生み出した.その結果,科学者を研究に駆り立てるのは,単なる知的好奇心というよりも,先取権を目指してのライバルとの競争心となった.

その後,18~19世紀を通じて学問分野は細分化され,19世紀中葉には科学の制度化に伴って科学は専門職業となった.「科学者」(Scientist)という英語は1830~40年代に造語された.

科学の専門細分化がさらなる細分化を促し,結果として,多くの専門的な科学雑誌が次々と創刊されるという,際限のないプロセスが始まった.雑誌の急増の結果,科学者達は興味深い新しい情報や知識を迅速かつ適切に把握できなくなってしまった.

情報爆発の救世主として登場したのが,コンピュータである.コンピュータは記憶媒体に大量の情報を蓄積し,必要に応じて情報を瞬時に検索して取り出すことができる.また,1980年代になるとコンピュータが通信の手段としても利用されるようになった.

近年,文献情報だけではなく,研究論文そのものが電子化されて直接インターネットを通じて電子ジャーナルとして出版されるようになった.また,図書館の電子化も盛んに議論されている.電子図書館が充実することは,e-ラーニングなどの電子化された教育の実質化に必要不可欠である.

コンピュータ革命と高度情報化社会の進展によって大学における研究と教育は大きく変化したが,この変化を知識生産の様式(モード)の根本的な変化とみることもできる.M・ギボンズらは,従来の知識生産の様式をモード1と呼んだ.また,近年の研究や知識生産のあり方はモード2と呼ばれている.モード1とは概ね大学を中心としたアカデミズム科学的な研究のあり方,知識生産のモードである.したがって,知識生産はもっぱら大学人の専売特許となっていた.また,大学人は自ら生産した知識が,役に立つか立たないかについて,無頓着であった.知識の生産の場としての大学は,外部に閉じていた.一方でモード2では,研究テーマを設定しそれを遂行するにあたって,研究費を直接負担しているスポンサーに対して,あるいは広く社会一般に対して,自らの研究の意義とその成果に説明責任を課されるようになってきた.

1980年代以降,大学・高等教育についても,市場原理・競争原理の適用が強調され,大学における研究・教育の内容と経済社会のニーズとの適合性が求められるようになった.大学・高等教育は競争的な資金配分へシフトした.いわば大学が企業のようになり,個々の教員も企業家あるいは資本家のように振るまい始めた.一部の論者は,この状況をアカデミック・キャピタリズム(大学資本主義)と呼んでいる.

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